会長の今昔話

ぬるま湯喫茶法

 

急須の由来3

 

もう50年も昔の話、昭和38年ごろ(1963年)のこと。

味の素株式会社中央研究所主席研究員に農学博士の前田清一氏がいらっしゃいました。

当時、前田氏は原油から油を精製する際、抽出できる酢酸(さくさん)に注目。

出汁(だし)の素となるグルタミン酸の化学方程式が酢酸の方程式に似ている処から、酢酸を利用したグルタミン酸L(味の素)を作ることに成功しました。

三重県の石油精製コンビナートの近くに工場を作り、いわゆる石油から味の素と云われる品を世に出すこととなりました。(その後、世の批判を浴び、石油を原料に味の素を作ることは中止となりました)

前田清一博士と昵懇じっこんの間柄であった筆者は「アミノ酸とは何ぞや」「九種類の必須アミノ酸のそれぞれの特性」など、色々と教えて戴いたものでした。

急須5

とある時、二人でお茶の旨味成分について語り合った時の話。

当時、茶の旨味成分は化学的には全く解析されていない時代でした。

小生はある考えを推測し博士に問うてみました。

――お茶はぬるま湯で淹れると旨いが、熱湯で淹れると渋さが強く旨くない。この理由は、お茶のそれぞれの旨味成分が湯の温度により溶解量が変わるからではないでしょうか?―

前田博士は「面白い理論だ! 暇をみて分析研究してみましょう」と約束して別れました。

その後半年ほど経ち、前田氏が私を訪ね、約束の分析結果を報告してくれました。

予想通り、それぞれの旨味成分は温度により溶解量が変化していました。

アミノ酸類(テアニンを含む)の溶解温度  50℃前後

カテキン類(タンニン酸を含む)の溶解温度 80℃前後

カフェインの溶解温度80℃前後 で急速に溶解が行われます。

お茶を淹れる時の湯の温度は、煎茶の場合、70℃程度が最適で、アミノ酸類の浸出が最も多く、カテキン類、カフェインの浸出量が少ない。

つまり、旨味成分の多い茶液を作れることが化学的に証明されたのです。

その後、昭和41年頃(1966年)、業界通報誌「新茶業通報」という旬門新聞の編集長、大石繁之助氏に、この分析結果を話すと、新聞記事として大々的に取り上げてくれました。

すると、この記事を読んだ当時の国立茶業試験場(現 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所)がこの問題を取り上げ、さらに詳しく分析し、その結果を昭和42年頃、正式発表しました。以来、お茶のぬるま湯の浸出理論が確立され、今日に至っているというものです。

前田清一博士が、化学においては素人の私の推測であったのに、これを分析、論理づけしてくださったことをご案内し、博士の茶に対する功績を改めて称えるものであります。

前田清一博士略歴

1915年 東京生まれ 東京農業大学を卒業 味の素㈱中央研究所主席研究員の傍ら、東北大学・静岡英和短期大学講師 著作「化学調味料」「食品分析ハンドブック」「調理科学辞典」「食品鑑別検査法」「たべものと漢詩」等多数あり

 

 



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